借りぐらしのアリエッティ感想

 心臓の手術を控えた病弱少年・翔が、術前1週間を母の実家で過ごす
ためにやってきた。
 広い敷地に林を抱えているような裕福で古い屋敷。そこには人に知られない
ようにひっそりと暮らす、小人一家が住んでいた。
 人間の少年に姿を見られてしまった小人のアリエッティと少年の、たった
1週間の交流の物語。

 というのがあらすじになるのかな。
 アリエッティ一家は身体のスケールが人間と比べてずっと小さいというだけで、
魔法が使えたり特殊能力があったりのファンタジーの住人ではないんです。
 森の草花や人間のアイテムをちょっとだけ借りて、それを加工して生活している。
小さいというだけでその暮らしは人間のそれと変わらないんですよ。
 父親は生活に必要な物を「借り」に行ったり取りに行って持ち帰る。母親は
それを使って衣食住をまかなう。必要な物を必要なだけ借りる慎ましい生活。
 「となりのトトロ」などに出てきた不思議な生き物とは違う、地に足を着けて
たくましく生きる姿がそこにはありました。

 そんな小人たちの絶対の掟は「人に見られてはいけない」こと。
 なのにアリエッティは翔に見られてしまう。若さゆえの勢いと環境、なによりも
見られた相手が悪かった。
 普通なら小人を見た人間は「ありえない」「あれ?」「気のせいかな」で、すんで
しまうのだと思うんですよ。けれど翔はアリエッティという小人の存在をすんなりと
受け入れてしまう。
 翔は小人たちに好意を持って協力しようとする。けれどもその「よかれ」と思って
やった行為は小人たちからすると、認知されてしまったということになるんですよね。
 いつもの小人たちならそういった人間側の反応を無視することで、しだいに
人間側も「やっぱり気のせいだったのかな」と諦め、忘れていくのだと思うんです。
 けれどもアリエッティも翔もその環境ゆえか、自分と同じ年頃の他人との接触が
少なく加減がわからない。
 ふたりともよかれと思った行為なのに、結果的には小人たちの生活を壊し、
アリエッティは住みやすいこの屋敷の下から引っ越しを余儀なくされる。
 翔なんかはこのことをアリエッティから直接断罪されてしまうんですよ。
これは切ないなぁ。
 なんちゅうか、映画を観ているほうもどこかで経験があるような出来事だと
思うんですよ。ゆくゆくはこれが大きな経験値になるのだけど、当事者の
心はさぞや痛かろうと。がんばれって応援したくなるシーンでした。

 翔がアリエッティから断罪されるシーンでは、翔が小人たちのことを絶滅する
種族と言い出すシーンもあって、こいつは突然どうしちゃったんだと思った。
そんなことを言われて気持ちのいい人間も小人もいないじゃないですか。
 なぜ翔がそんなことを言い出したのかわからなかったのですが、映画が
終わったあとにふと思い至った。
 この時点での翔は己の手術が成功すると信じていないんです。病と闘う
気力もなく、日々にただただ流されている。現状の自分に諦めているんですよ。
 そんな自分と同じところにアリエッティを堕としたかったのかなーと。
 どんどん種族を減らしていき生きにくくなっている小人たちは、いずれ絶滅=死
を迎える。何をやっても滅びるのだと、翔はアリエッティにつきつけるんですよね。
 己が囚われている死という鳥籠に、アリエッティも閉じ込めたかったんだと
思いました。この坊ちゃんがこのまま成長したら、いい病みキャラになるで(笑)

 けれどもここでアリエッティは強く反発するんですよ。まだ自分たちは終わって
なんかいない。新しい仲間にも出会えたし新天地でも生き抜いてみせると、
泣きながらも決してうずくまることをしなかった。
 これは翔に聞かせながらも同時に自分自身に課した決意だなぁ。
 このアリエッティを見て初めて翔は、まだ自分は終わっていないんだと思えた
のかもしれません。
 
 翔がアリエッティに闘う意思を告げるシーンはふたりの別れにふさわしく、
たいへん美しいシーンでした。
 やっぱりヒーローとヒロインの明日へと続く別れは暁じゃなくっちゃね!
 
 アリエッティと翔はもう少し長い間コミュニケーションをとれてたら、恋愛感情に
なったのかもしれないなぁ。今はその手前だと解釈したのだけど、住む世界が
異なっているふたりのやりとりは、見ていてドキドキしてハラハラします。
 もう少しそのドキハラ感を味わいたくもあったけど、これ以上続いたら
恋愛感情にシフトしてしまいそうなので、それだとちょっとおいしくないかな(笑)
 この微妙なドキハラ感がいいんだよ!

 それにしてもジブリヒーローってどうしてこう色っぽいんでしょうかね!!!!!
映画始まって翔が登場した瞬間、またすごいのを持ってきたなって思ったw
 ジブリ絵でアニメされると謎の色気粒子でも放出するんだろうか……
 そんでもってアリエッティのかわいさときたら! 自分の部屋を好きなように
飾ったり、どの服を着ようかと悩んだりの女の子っぷりがかわいいです。
 人間用の豆クリップでポニーテールに結い上げるのも好き。この設定と
アイテム考えた人は天才か! と思うくらい。この絵見たら一発でアリエッティを
わかってしまうもんなぁ。
 最後にはそのクリップを外し翔にお守りとして渡してしまうんだけど、この
シーンがもう好きで好きで! 涙出そうになったわー。
 同時に髪を結い上げた姿から下ろした姿をさらすっちゅう行為に色気を
感じてしまいました。翔の前でやらせてくれてありがとうスタッフ。
ここはエロい(だめな大人の感想)。

 小人たちの生活には人間のアイテムがたくさん混じっているのだけど、
その使われ方を見るのも楽しい映画です。
 スケールが違うだけでこんな用途に変わるんだという新鮮さ。
水の表現だって人間を描いているときとは違う。
 小人視点だと世界がまた違って見えて、そこも楽しいところです。

 それにしてもセリフの少ない映画だな!
 実際のワード数を測ったわけではないので印象でしかないのですが。
 役者を声担当に起用したいつものジブリ配役で、どのキャラもイメージにあって
いてよかったし棒読み感はなかったのだけど、そう思えた一因はセリフの
少なさも関係していたのかもしれない。

 ジブリアニメにはぶさいくな猫がよく出てくる印象があるのですが、アリエッティ
にもぶさ猫が出てきます。描かれた猫にはあまりピンとこない私ですが、
ジブリのぶさ猫には反応してしまう。実に愛らしい。
 このぶさいく猫が最後に粋な計らいをするのがニクイんだなぁ。
 アリエッティと同じ年頃の小人少年も出てきます。こいつがアリエッティに
興味津々なのが微笑ましい。気になっちゃって仕方がないみたい。
 同じ小人といっても生活スタイルは違うんだなーと思えるキャラクタで、
なんともワイルドでした。

 この映画を見たあとは、あるはずなのに見つからない物は小人たちが
借りていったのかもなんて、そう思うとほんわりと和む。
 ハラハラドキドキがない映画ではないものの、その落差の幅はそう広くはなく、
ガツンとくるような強い刺激も少なめな感じです。
 基本的に悪人は出てこないアニメです。ハラハラする場面もありますが、
それを演出するのは好奇心なので。
 お爺ちゃんお婆ちゃんからお孫さんまで、家族で安心して観られる映画
だと思います。

 逆にいうと眠いかんじはする。

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